前橋家庭裁判所桐生支部 事件番号不詳 決定
少年 H(昭一九・九・五生)
主文
少年を前橋保護観察所の保護観察に付する。
前橋保護観察所所長は少年の家庭について後記の環境調整の措置をとらなければならない。
理由
(非行事実)
少年は
第一、Y、M、K、A、S、Jと共謀の上、昭和三六年四月八日頃午後一〇時頃太田市大字○○××番地○○橋駅付近を自転車で通りかかつた工員H子(一五年)の後をつけ同所より○○方面に通ずる人家のない県道に至るや、突然同人を自転車から下車させ両腕を押えて県道より一〇〇米南方の同市大字○○××番地の桑畑に連行し、同女を足を払つて仰向けに倒し両手を押えつけてその反抗を抑圧し、交互に同女を強いて姦淫し
第二、Yと共謀の上、同年三月二四日午後八時半頃太田市大字○○××番地付近暗がりにおいて、工員Tに対し些細のことに因縁をつけ「でつかいつらをするな」といいながら、両名交互に手拳で同人の顔その他を殴り足蹴にする等の暴行を加え、因つて同人に全治まで五日間を要する顔面打撲傷を負わせ
第三、同年四月一五日午後八時頃太田市大字○○××番地付近県道において、工員G子(一五年)に対し些細のことに激昂し同女の顔を右手拳で殴打して暴行し
たものである。
第一、刑法第六〇条第一七七条
第二、刑法第六〇条第二〇四条
第三、刑法第二〇八条
昭和三六年四月一二日太田市○○劇場でRに対し恐喝未遂を犯したとの送致事実については犯罪の証明が充分でない。
(処分理由)
少年は○○橋駅付近を中心にした不良グループの一員である。それについては少年の資質と環境の両面に問題が存すると思われるが、先ず少年にとつて最も不幸なことはその家庭が殆んど崩潰しているということである。少年の家庭は元両親と二人の兄二人の姉があつたのであるが、少年の父が昭和三〇年頃外に女をつくつて家を出てからというもの、そのため二人の兄は次々と家出をして行方不明となつてしまうし、二人の姉は夫々茨城県笠間町、足利市において女中をしているので現在では少年は母と二人で暮しているのである。ところでその母は無教育(文盲)である上、その生活のために労働しなければならず、少年の監督など望むべくもない。次々と家族が家出してしまつた現在では、母もその家庭をもてあましている状態であり、却つて少年を何とか自分の手許に留めて現在及び老後の頼りにしたいとの念のみでつながつているといつたところであり、温いうるおいのある愛情などは遠く背後に退いてしまつている。翻つてその住んでいる処はといえば他人の納屋の一隅を借りているだけで電灯もなく石油ランプを使用しており、フトン二つで、僅かに雨露を凌いでいるといつた極度に陰惨な生活を送つている。したがつて、情緒面でもその負因は大きいといわなければならない。生活の糧としては母が日雇労働をしているのと、少年が新田製作所に務めて日給二七〇円をえているのとが唯一のものであつて、少年の父はもとより多くの兄姉からも何等の仕送がなされていないようである。かかる環境に育つた少年が、本件までさしたる非行をみなかつたというのはむしろ以外だと言わなけれどならない。
次にこのような環境に蔽われた少年の資質はといえば、知能程度からみれば普通級であるが、その情意は動搖しやすく、意思薄弱で軽佻むら気であるので、慾求不満のはけ口を求めて、少年が安易なゆきあたりばつたりの放縦な生活を営むようになるのは当然である。少年が同じ傾向をもつ不良グループに身を投ずるに至つたのは洵に物心両面に亘りその理由ありというべきところである。少年の前途は非常に暗い。
(環境調整の措置)
かかる少年には先ず将来に対する希望と方針を抱かせることが先決である。それには健康で文化的な最低限度の日常生活を維持せしめなければならない。その障害を取り除いてやることは我々の務めである。
(一)藪塚本町に住んでいるという少年の父に家へ帰るようすすめると共にできうれば行方不明の二兄を探し、前記二姉に少年と母の実情を通知して扶養義務をつくさせることが望ましい。(二)尚これまで両親が離婚していないので生活保護法上の扶助を受けられないとのことであるが、この点関係当局とよく連絡をとり、その障害を除去し少年の家庭の事情をよく説明してその扶助(特にその住宅扶助)をうけられるよう斡旋すべきである。(三)差当つてはその家に電灯をつけさせることである。少年の安定した職業指導は勿論であるが、本件ではそれに止まつてはならない。保護観察所長は以上の措置を平行して同時に実行に着手し、その後一定の目途が立てば少年のため最善の方策を選んで長期に亘つて保護の実を上げるようつとめるべきである。それにつき法律的問題が生ずる場合には当庁を利用してもらいたい。
よつて少年法第三条第一項第一号第二四条第一項第一号第二項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 松沢博夫)